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UXとは?UIとの違いや重要性を初心者向けに解説

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「UX(ユーザーエクスペリエンス)」とは、製品やサービスを通じてユーザーが得られる「体験」の総称です。単なる使いやすさだけでなく、利用前の期待から利用後の感情までを含む広義の概念として定義されます。本記事では、混同しやすいUIとの違いやCXとの関係性、なぜ今UXデザインが重要なのかを初心者向けにわかりやすく解説します。質の高いUXを実現するための5段階モデルも紹介しますので、ユーザーに選ばれ続けるサービス作りの参考にしてください。

1. UXとは製品利用の前後を含めた体験全体

UX(User Experience:ユーザーエクスペリエンス)とは、直訳すると「ユーザー体験」を意味する言葉です。しかし、これは単に製品を使っている瞬間のことだけを指すのではありません。製品やサービスに出会う前から、使い終わった後の感情までを含めた一連の体験全体がUXと定義されています。

例えば、あるアプリケーションを利用する場合、アプリを操作している時間だけでなく、「評判を聞いてワクワクする」「使い終わって満足感を得る」「友人に勧めたくなる」といった全てのプロセスがUXの一部となります。国際規格であるISO 9241-210においても、UXは「製品、システム、またはサービスの利用、および/または予想された利用から生じる、人々の知覚と反応」と定義されており、時間的な広がりを持った概念であることが示されています。

1.1 予期的UXから累積的UXまでの時間軸

UXを深く理解するためには、体験を時間軸で区切って捉える視点が重要です。ユーザーの体験は、製品に触れる前から始まり、利用を重ねることで積み重なっていきます。一般的に、UXは以下の4つの期間に分類して考えられます。

期間名称定義具体例
利用前予期的UX
(Anticipated UX)
製品やサービスを利用する前に、情報や過去の経験から想像する体験。広告を見て「便利そうだ」と感じる。
口コミを見て期待が高まる。
利用中一時的UX
(Momentary UX)
実際に製品やサービスを利用している瞬間に感じる体験。操作がスムーズで気持ちいい。
画面の反応が遅くてイライラする。
利用後エピソード的UX
(Episodic UX)
特定の利用機会が終了した後に、その体験を振り返って得られる評価。「この機能を使ってよかった」と安堵する。
達成感を感じる。
全体期間累積的UX
(Cumulative UX)
利用開始から現在までの全期間を通じた、総合的な体験や愛着。生活に欠かせないツールだと感じる。
ブランドへの信頼が深まる。

このように、瞬間的な使いやすさだけでなく、利用前後の期待や記憶も含めてデザインすることが、優れたUXを実現するためには不可欠です。例えば、予期的UXで期待値を上げすぎると、実際の一時的UXがそれに追いつかず、結果としてエピソード的UXが悪化してしまうというケースもあります。各段階のつながりを意識することが求められます。

1.2 単なる使いやすさだけではないUXの広がり

UXについてよくある誤解の一つに、「UX=使いやすさ(ユーザビリティ)」という認識があります。確かに「使いやすさ」はUXを構成する重要な要素の一つですが、それだけが全てではありません。

優れたUXには、機能的な価値(役に立つ、使いやすい)に加えて、情緒的な価値(楽しい、美しい、心地よい)や意味的な価値(自分らしい、誇らしい)が含まれます。たとえ機能がシンプルであっても、持っているだけで嬉しくなるようなデザインや、使うことで社会貢献につながるようなサービスは、高いUXを提供していると言えます。

ニールセン・ノーマン・グループなどの専門機関も提唱するように、UXとは製品・サービスとのやりとりでユーザーの中で生じる主観的な感覚や反応のことであり、そこには信頼感やブランドイメージといった心理的な側面も大きく影響しています。したがって、UXを改善するためには、システムのエラーをなくすといった技術的なアプローチだけでなく、ユーザーがどのような感情を抱くかという人間中心の視点が欠かせません。

2. UXとUIの違いとCXとの関係性

UI・UX・CXの包含関係と役割 CX (Customer Experience) 顧客体験:企業との関わり全体(線) 認知・購入・サポート・リピート UX (User Experience) ユーザー体験:製品利用時の体験(点) 「使いやすい」「楽しい」「満足」 UI 接点・外観 デザイン・操作性 関係性: CX > UX > UI

UX(ユーザーエクスペリエンス)を深く理解するためには、よく混同される「UI」との違いや、より広義な概念である「CX」との関係性を整理することが不可欠です。これらはそれぞれ異なる領域を指しながらも、相互に深く影響し合っています。

2.1 UIデザインとUXデザインの役割分担

UI(User Interface:ユーザーインターフェース)とは、ユーザーと製品・サービスとの「接点」を指します。Webサイトであれば、画面のレイアウト、フォント、ボタンの色や形、操作性などがUIに該当します。一方、UXはそれらを通じて得られる「体験全体」を指します。

UIとUXの関係は、「UIはUXを高めるための重要な要素の一つ」と言えます。どれほど見た目が美しいUIであっても、使い勝手が悪く、ユーザーが目的を達成できなければ、優れたUXとは言えません。逆に、機能が優れていてもUIが分かりにくければ、ユーザーはストレスを感じ、UXは損なわれます。

両者の違いを整理すると、以下のようになります。

項目UI (User Interface)UX (User Experience)
意味ユーザーと製品の接点・接触面製品を通じて得られる体験・感情
具体例画面デザイン、ボタン、操作メニュー「使いやすい」「楽しい」「満足した」
目的情報を分かりやすく伝える、操作を補助するユーザーの課題解決、満足度の向上
視点機能的・視覚的な使いやすさ利用前後の文脈を含めた体験の質

例えば、あるECサイトで「購入ボタンのデザインが洗練されている(UI)」ことは重要ですが、それによって「スムーズに買い物ができて嬉しかった(UX)」という感情を引き出せて初めて、デザインの価値が生まれます。つまり、UIデザイナーは「使いやすさ」を作り、UXデザイナーは「その先にある体験」を設計するという役割分担があります。

2.2 CXとUXの包含関係について

近年、UXと合わせて語られることが多いのがCX(Customer Experience:カスタマーエクスペリエンス/顧客体験)です。CXは、UXよりもさらに広い概念として位置づけられます。

UXが主に「製品やサービスを利用している期間の体験」に焦点を当てるのに対し、CXは「製品を知り、購入し、利用し、サポートを受け、再購入に至るまでの企業との関わり全体」を指します。これを包含関係で表すと、「CX > UX > UI」という図式が成り立ちます。

UXとCXの違いを理解する上では、「点」と「線」で考えると分かりやすくなります。

  • UX(点):アプリを使っている瞬間や、Webサイトを見ている時の体験。
  • CX(線):広告での認知から、購入後のカスタマーサポート、店舗での接客までを含めた、ブランド全体との継続的な関係性。

UXの世界的権威であるニールセン・ノーマン・グループも指摘するように、UXとCXは対立するものではなく、CXの中にUXが内包されていると捉えるのが適切です。個々のタッチポイントでの優れたUX(アプリの使いやすさなど)が積み重なることで、結果として良質なCX(ブランドへの信頼感)が形成されます。

したがって、企業が持続的な成長を目指すには、単一の製品におけるUX改善だけでなく、それを取り巻くあらゆるプロセスを含めたCXの視点を持つことが求められます。

3. UXデザインが求められる社会的背景

近年、あらゆる業界でUX(ユーザーエクスペリエンス)という言葉が頻繁に使われるようになったのには、明確な理由があります。それは単なる流行ではなく、市場環境の変化や技術の進歩に伴い、ビジネスの生存戦略として優れた顧客体験の提供が不可欠になってきたからです。ここでは、なぜ今UXデザインが強く求められているのか、その背景にある2つの大きな要因について解説します。

3.1 モノ消費からコト消費への価値観の変化

かつての高度経済成長期のような「良いモノを作れば売れる」という時代は終わりを迎えました。市場には高品質な製品が溢れ、機能や性能だけで他社製品と差別化を図ることが極めて困難になっています。現代の消費者は、製品そのものを所有すること(モノ消費)以上に、その製品やサービスを通じて得られる体験や感動(コト消費)に価値を見出すようになりました。

例えば、カフェを利用するユーザーは単に「コーヒーという液体」にお金を払っているのではなく、「居心地の良い空間」や「洗練された接客」といった体験全体に対価を支払っています。このように、製品そのもののスペックよりも得られる体験価値が重視されるようになった結果、UXデザインによる体験の設計が重要視されているのです。

モノ消費とコト消費の違いを整理すると、以下のようになります。

比較項目モノ消費(従来の価値観)コト消費(現代の価値観)
重視される点機能、性能、スペック、価格ストーリー性、感情的充足、利用プロセス
ユーザーの目的製品を「所有」すること製品を通じて「体験」すること
企業の戦略高機能化、低価格化UXの向上、ブランディング、ファン化

3.2 デジタルトランスフォーメーションの加速

もう一つの大きな要因は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の急速な進展です。スマートフォンやタブレットが普及し、私たちの生活のあらゆる場面でデジタルデバイスが介在するようになりました。銀行の振り込みから日用品の買い物、行政手続きに至るまで、ユーザーと企業・組織との接点(タッチポイント)がデジタル上に移行しています。

3.2.1 SaaSやサブスクリプションモデルの台頭

特に、ソフトウェア業界を中心にビジネスモデルが「売り切り型」から「SaaS(Software as a Service)」や「サブスクリプション(定額制)」へとシフトした影響は甚大です。売り切り型であれば購入時点がゴールのひとつでしたが、継続利用が前提となるサブスクリプションモデルでは、使いにくいシステムはすぐに解約され、競合他社へと乗り換えられてしまうリスクがあります。

ユーザーは常に「使いやすいか」「役に立つか」「心地よいか」を厳しく評価しています。そのため、デジタル接点においてストレスのないスムーズな操作性や、ユーザーの課題を的確に解決するUXデザインを提供することは、顧客満足度(CS)を維持し、LTV(顧客生涯価値)を最大化するために避けては通れない課題となっているのです。

4. 質の高いUXを実現するための5段階モデル

UXの5段階モデル 具体的 抽象的 Concrete Abstract 5. 表層段階 Surface ビジュアルデザイン 配色、フォント、画像、装飾 4. 骨格段階 Skeleton ワイヤーフレーム / レイアウト ボタン配置、情報の優先順位 3. 構造段階 Structure 情報設計 (IA) / 画面遷移 カテゴリー分類、ナビゲーション設計 2. 要件段階 Scope 機能要件 / コンテンツ要件 必要な機能、提供する情報 1. 戦略段階 Strategy ユーザーニーズ / 事業目的 誰の課題を解決するか、なぜやるか

優れたユーザー体験(UX)を設計するためには、単に見た目を整えるだけでは不十分です。UXデザインの世界では、抽象的な概念から具体的な最終成果物に至るまでのプロセスを体系化した「UXの5段階モデル」というフレームワークが広く活用されています。

このモデルは、アメリカのUXデザイナーであるジェシー・ジェームズ・ギャレット(Jesse James Garrett)氏が著書『The Elements of User Experience』の中で提唱したもので、UXデザインを「戦略」「要件」「構造」「骨格」「表層」の5つの階層に分けて考える手法です。

4.1 戦略から表層に至るまでのプロセス

5段階モデルは、下層にある「戦略」からスタートし、上層の「表層」に向かって段階的に具体化していくプロセスです。各段階で決定された事項が、その上の段階の土台となります。

段階英語名主な決定事項と役割
5. 表層Surface視覚的なデザイン、フォント、配色など、ユーザーの目に触れる最終的なアウトプット。
4. 骨格Skeletonインターフェースの配置、ナビゲーション、情報の優先順位(ワイヤーフレームなど)。
3. 構造Structureユーザーの動線設計、情報アーキテクチャ(IA)、インタラクションの流れ。
2. 要件Scope必要な機能仕様、コンテンツの範囲、提供する情報の定義。
1. 戦略Strategyユーザーニーズ(誰に何を提供するか)とプロダクトの目的(ビジネスゴール)。

4.1.1 1. 戦略段階(Strategy)

最も土台となるのが「戦略段階」です。ここでは、「ユーザーが何を求めているのか(ユーザーニーズ)」と「企業がなぜその製品を作るのか(プロダクトの目的)」を明確に定義します。この段階でのブレは、後のすべての工程に悪影響を及ぼすため、徹底したリサーチと目標設定が不可欠です。

4.1.2 2. 要件段階(Scope)

戦略で定めた目標を達成するために必要なものを定義するのが「要件段階」です。具体的には、どのような機能が必要か、どのようなコンテンツを掲載するかといった機能仕様やコンテンツ要件を策定します。実現不可能な機能を排除し、リソースの範囲内で最大の価値を出せる範囲(スコープ)を決定します。

4.1.3 3. 構造段階(Structure)

要件を具体的な形にするための骨組みを作るのが「構造段階」です。ここでは、ユーザーがどのようにシステムと対話するかという「インタラクションデザイン」や、情報がどのように分類・整理されるかという「情報アーキテクチャ(IA)」を設計します。ユーザーが迷わずに目的の情報へ辿り着けるような動線作りが求められます。

4.1.4 4. 骨格段階(Skeleton)

構造を画面上のレイアウトとして可視化するのが「骨格段階」です。ボタンの配置、ナビゲーションバーの位置、写真やテキストのレイアウトなど、具体的なインターフェースデザインやワイヤーフレームを作成します。この段階ではまだ色や装飾は施さず、情報の配置と機能性に焦点を当てます。

4.1.5 5. 表層段階(Surface)

最後の仕上げとなるのが「表層段階」です。骨格に対して、配色、フォント、画像、アイコンなどのビジュアルデザインを施します。単に美しくするだけでなく、ブランドイメージを伝え、ユーザーの視線誘導を助けるような視覚的表現を行います。

4.2 一貫性のあるデザインを行うためのポイント

この5段階モデルにおいて最も重要なことは、下層の決定事項が上層の制約条件になるという依存関係を理解することです。

例えば、「戦略」でターゲットユーザーが明確になっていなければ、「表層」でどのようなデザインテイストを採用すべきか判断できません。また、「構造」での画面遷移設計が不十分なまま「骨格」を作ろうとすると、ボタンの配置に矛盾が生じます。

多くの失敗プロジェクトでは、土台となる戦略や要件を飛ばして、いきなり目に見える「表層」や「骨格」のデザインから着手してしまいがちです。しかし、質の高いUXを実現するためには、抽象的な戦略から具体的な表層へと順を追って積み上げていくプロセスを遵守し、各段階で整合性が取れているかを常に確認することが求められます。

5. UXデザイナーに求められるスキルと視点

UXデザイナーの役割は、単に美しい画面を作ることではありません。ユーザーが抱える本質的な課題を発見し、それをビジネスの成果に繋がる解決策へと落とし込むことが求められます。そのため、デザインスキルだけでなく、マーケティングや心理学、データ分析など多岐にわたる能力が必要です。

5.1 ユーザーへの共感と論理的思考力

UXデザインの出発点は、ユーザーを深く理解することにあります。しかし、これは単なる想像や思い込みではなく、客観的な調査に基づいたユーザーへの深い共感(Empathy)が必要です。

ユーザーインタビューや行動観察を通じて、「ユーザーがなぜその行動をとるのか」「どのような感情を抱いているのか」を自分事として捉える感性が求められます。同時に、集めた定性的な情報を構造化し、誰もが納得できる形に整理するための高度な論理的思考力(ロジカルシンキング)も不可欠です。

5.1.1 関係者を納得させる言語化能力

UXデザイナーは、エンジニアやマーケター、経営層など、異なる背景を持つステークホルダーと協業します。なぜそのデザインにしたのか、なぜその機能が必要なのかを、感覚的な言葉ではなく論理的に説明し、チームの合意形成を図るコミュニケーション能力が重要です。

5.2 データ分析に基づいた改善提案力

優れたUXデザイナーは、製品をリリースして終わりにはしません。実際の利用データに基づいて仮説と検証を繰り返し、体験を継続的にアップデートしていく姿勢が求められます。

Google Analyticsなどの解析ツールを用いた定量データの分析や、ユーザビリティテストによる定性データの分析を行い、事実に基づいて改善ポイントを特定する力が必要です。また、ユーザーの満足度を高めるだけでなく、コンバージョン率(CVR)や顧客生涯価値(LTV)といったビジネス指標(KPI)への貢献も意識しなければなりません。

5.2.1 UXデザイナーのスキルセット一覧

UXデザイナーに求められる具体的なスキルや使用ツールを整理すると、以下のようになります。

分類具体的なスキル・手法主な使用ツール例
リサーチ・分析ユーザーインタビュー、行動観察、競合分析、アクセス解析、ユーザビリティテストGoogle Analytics, Hotjar, Zoom
設計・モデリングペルソナ策定、カスタマージャーニーマップ、ワイヤーフレーム作成、情報設計(IA)Miro, FigJam, Excel
デザイン・プロトタイプUIデザイン、インタラクション設計、プロトタイピング、デザインシステム構築Figma, Adobe XD, Sketch
ビジネス・ソフトスキルファシリテーション、プレゼンテーション、論理的思考、課題解決力PowerPoint, Slack, Notion

このように、UXデザイナーには「右脳的な感性」と「左脳的な論理」の両方が求められます。まずはユーザーへの興味を持ち、小さな改善から仮説検証のサイクルを回してみることが、スキルアップの第一歩となるでしょう。

6. 優れたUXの身近な具体例

UX(ユーザーエクスペリエンス)という言葉は抽象的で、定義だけではイメージしにくいかもしれません。しかし、私たちの身の回りには、優れたUXデザインによって多くのユーザーに支持されているサービスやプロダクトがたくさんあります。

ここでは、日本国内で広く知られている「スターバックス」「LINE」「ユニクロ」の3つの事例を通して、具体的にどのような点が「優れたUX」として評価されているのかを解説します。

6.1 スターバックスが提供するサードプレイスの体験

スターバックスは、単にコーヒーという「商品」を売っているだけではありません。家庭(ファーストプレイス)でも職場(セカンドプレイス)でもない、くつろげる第三の場所「サードプレイス」としての体験価値を提供している点が、優れたUXの代表例として挙げられます。

例えば、以下のような要素が組み合わさることで、スターバックスならではのUXが形成されています。

要素提供されるUX(体験価値)
店舗空間おしゃれな内装、座り心地の良い椅子、Wi-Fiや電源の完備により、長居したくなる居心地の良さを感じることができます。
接客(ホスピタリティ)マニュアル通りではないフレンドリーな会話や、カップへの手書きメッセージなどが、特別感や温かみのある体験を生み出します。
商品カスタマイズトッピングやミルクの変更など、自分好みの味を作れることが、自分だけの特別な一杯を楽しむ満足感につながります。

このように、コーヒーの味(品質)が良いことは大前提として、店舗に入ってから出るまでの一連の体験すべてが高い質で設計されていることが、ユーザーの満足度を高めているのです。

6.2 LINEの直感的な操作性とコミュニケーション体験

日本国内で圧倒的なシェアを誇るメッセージアプリ「LINE」も、優れたUXデザインの好例です。LINEが登場する以前、携帯電話での連絡手段はメールが主流でしたが、LINEは「会話を楽しむ」という新しいコミュニケーション体験を作り出しました。

LINEが提供するUXの最大の特徴は、以下の点にあります。

  • 直感的なUIデザイン:吹き出し形式のインターフェースにより、時系列で会話の流れがひと目でわかります。説明書を読まなくても、誰でもすぐに使えるわかりやすさが徹底されています。
  • スタンプによる感情表現:文字を打たなくても、スタンプひとつで今の気持ちを伝えられます。これにより、テキスト入力の手間を省きつつ、感情豊かにコミュニケーションできる楽しさを提供しました。
  • 「既読」機能の役割:相手がメッセージを読んだかどうかがわかる機能は、緊急時の安否確認だけでなく、相手と同じ時間を共有しているようなリアルタイムなつながりを感じさせます。

機能としては「メッセージを送受信する」というシンプルなものですが、そこに「手軽さ」や「楽しさ」という感情的な価値を付加したことで、生活に欠かせないインフラとしての地位を確立しました。

6.3 ユニクロのアプリと店舗を連携させた体験

アパレル大手のユニクロは、実店舗と公式アプリを巧みに連携させ、オンラインとオフラインの垣根をなくしたシームレスな購買体験を提供しています。これはOMO(Online Merges with Offline)の成功事例としてもよく知られています。

ユーザーは、ユニクロのアプリを使うことで以下のような便利な体験が可能になります。

  • 店舗在庫の確認:欲しい商品が近くの店舗にあるか、アプリですぐに確認できます。これにより、「店に行ったのに売り切れていた」という失望(マイナスのUX)を防ぐことができます。
  • 店舗受取りサービス:オンラインストアで購入した商品を、送料無料で希望の店舗で受け取れます。自分の都合の良い時間に受け取れるため、宅配便を待つストレスから解放されるというメリットがあります。
  • バーコードスキャン:店舗で商品のバーコードをスキャンすると、他のサイズやスタイリング画像を確認でき、店舗にいながら豊富な情報にアクセスして検討することができます。

ユニクロの事例は、デジタル技術を活用して、店舗での買い物における「不便」を解消し、より便利で快適なショッピング体験全体をデザインしている点が非常に優れています。

7. まとめ

UX(ユーザーエクスペリエンス)とは、製品の利用前後にわたる体験全体を指し、単なる使いやすさを超えた概念です。UIやCXとの違いを正しく理解し、コト消費やDXが加速する現代において、質の高いUXデザインはビジネスの成功に不可欠と言えます。

5段階モデルに基づき、ユーザーへの共感とデータ分析をもって継続的に改善を行うことが、顧客に選ばれ続けるサービスを実現するための鍵となるでしょう。

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